ダンスと音楽から生まれる新しい街の風景
2011年に、現代表でもあり舞踏家の松岡大が街歩きをしながらダンスを楽しむパフォーマンスイベント「LAND FES」を立ち上げました。観客がダンサーに導かれながら街の各所を巡り、見慣れた景色を異化するダンスと音楽によるライブセッションを鑑賞するスタイルで、これまでに吉祥寺、高円寺、沼津、熱海などの街で開催。劇場やイベントスペースにこだわらず、空間との対話、観客との境界を越えたパフォーマンスのあり方を探求し、様々な地域と連携しながら実施を重ねてきました。2014年〜18年の5年間にかけては、調布市せんがわ劇場主催「JAZZ ART せんがわ」の同時開催イベントとして仙川の街を舞台に上演。2021年より、熱海未来音楽祭にてLAND FESを毎年継続して上演しながら、ダンサー&ミュージシャンと地域の人々との関わりの中で生まれる新しい街の景色を立ち上げています。
LAND FES 熱海
温泉街熱海の各所で音楽家とダンサーによるセッションが繰り広げられる、巻上公一によるプロデュース「熱海未来音楽祭」を、LAND FESが2020年より共催。即興を中心とした音楽&ダンスの表現により、観光で訪れた人と熱海に暮す人々が出会い、交流する場を創出。ジャンルに当てはまらない、どこの国のものかわからない、でもなにか魅力を感じる、心に残ってしまう、未来を拓く力を持つ音楽祭を目指して、国内外で活躍する数多くのアーティストを招きながら歴史ある温泉観光地・熱海で展開しています。
LAND FES DIVERSITY 高円寺
「個の多様性」とサステナブルな街づくりをテーマにダンサーとミュージシャンが高円寺を駆け抜ける「LAND FES DIVERSITY 高円寺」。様々な個性を放つ8組のダンサーとミュージシャンによるライブセッションがツアー形式で展開し、街の各所で予測不可能なケミストリーが発生。多様な人を受け入れ、各々の表現を積み重ねることによって活気づく「街づくり」の意義を唱えながら、「水流」としての高円寺の新しい魅力にフォーカスしたイベント。
公演レビュー
私たちのアイデンティティは単一ではない。複数の要素の集合体であり、例えば国籍のような特定の属性に全てを還元することはできない、障がいの有無・性的指向なども同様に一構成要素であって、更にその中にも微細な濃淡や揺らぎがある。にもかかわらず、わかりやすい差異だけに過剰に光を当て枠にはめてしまう例は、パフォーミング・アーツの領域においても多い。
RealTokyo記事より引用 執筆者:呉宮百合香 https://realtokyo.co.jp/performance/land-fes-diversity-koenji/
この点において、各出演者の多面的な魅力が発揮された今回の8セッションは、観る者の認識のバイアスを問う契機ともなりうるものであった。最も多様なもの。それはまさに、複数性を内包しながら人生を積み上げてきた個々の身体であり、そこから生まれる豊かな表現なのだろう。LAND FESが体現するのは、同化でも排除でもなく、ばらばらの身体を持つ者がばらばらのまま重なり合う「異化と統合」へのビジョンである。
「景観は人が作れる」と主宰の松岡大が語るように、こうした試みが街に現れ、「当たり前」を揺るがすことは重要だ。街の風景は、必ずや人の身体と思考に影響を与える。ダイバーシティの言葉ばかりが一人歩きする今こそ、個の表現と出会いに地道にフォーカスし続けるその活動の意義は大きい。
LAND FES 芝浦
港区芝浦で様々なコミュニティプログラムを開催し、新しいパブリックづくりを実践してきたSHIBAURA HOUSEを中心に、6組のダンサーとミュージシャンによるセッションが展開。芝浦は江戸時代より海辺の賑わいに恩恵を受け、運河を中心に独特の発展を遂げてきた水と文化に所縁のある地域。企業や大学、はたまた大使館がひしめき合うエリアならではの、様々な景色が集約されたコミュニティで展開するパフォーマンス。コロナ禍でリアルイベントが制限される中、映像表現によりLAND FESの活動を継続しました。
LAND FES 深川
下町風情と水辺の景色に恵まれた江東区深川で、街をツアーしながらダンサーとミュージシャンによるライブセッションを体験するウォーキング形式のパフォーマンスイベントを2019年に開催。以降も、地域の人々による協力を受け、「LAND FES DIVERSITY 深川」に繋がっていきます。
All photos by 木村雅章